2016年5月4日水曜日

「原発のテロ対策」は、驚くほど整っていない

 「敵の武器としての原子力発電所」の著者で、ジョージ・ブッシュ政権時代に政治軍事局の政策アナリストを務めたベネット・ランバーグ氏の寄稿文が、東洋経済オンラインに掲載されました。
 そこでは、原発のテロ対策がなかなか本気で取り組まれていないという現実が、人間は実際に事故が起きないと本気で取り組まないものだという諦観をもって記述されています。
 
 一旦事故が起きれば回復不能の被害を受けるのを経験していながら、その危険性を十分に承知していながら、多分近々には起きないだろうという甘い思いの許に、必要な対策を実施しないあるいは原発そのものをやめない・とめないというのが日本の原子力規制委や原子力ムラの実態ですが、その罪深さは他とは比較になりません。
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「原発のテロ対策」は、驚くほど整っていない
チェルノブイリ30周年で考えるお寒い現実
東洋経済オンライン 2016年05月03日
 4月26日、原子炉がテロの標的になるかもしれないという不安が高まる中で、チェルノブイリは事故から30周年を迎えた。
 過激派組織「イスラム国(IS)」による最近のブリュッセル攻撃では、重大な懸念が生じた。襲撃者たちが核関連で事件を起こそうとしていた証拠があったからだ。テロリストがベルギーの原子力行政の高官を監視し、原子力発電所の元従業員2名がISに参加したと報じられた。
 ベルギー当局が原発を守るため軍隊を急行させた理由については、これで説明がつくかもしれない。
 この突然の恐怖は、原子炉が放射性物質の宝庫であり、テロリストに悪用されかねないことを思い出させた。核施設破壊はテロによる暴力の最たるものだろう。放射性元素は国境を越えて広がる。それにより、多くの命が危険にさらされ、チェルノブイリや福島での爆発を再現するような経済や環境の破壊が起こる。
 
「パンドラの箱」は開いたままだ
 西洋諸国やほかの地域は、どの程度憂慮すべきなのだろうか? 危険が依然として深刻なのであれば、なぜ国際社会は強制的な保安基準を課さないのだろうか?
 実際、ワシントンはその通りにしようとした。1946年6月14日、米国は原子力の国際規制を目指すバルーク案を国連で提案した。この案では、国際原子力開発機関が「世界の安全保障に対し潜在的に危険な原子力エネルギー活動の全ての管理と所有」を行い、「他の全ての原子力活動を制御、査察、認可する権利」を有するよう提唱した。
 冷戦による駆け引きが邪魔しなかったら、今日の原子炉はより安全で頑丈だっただろう。しかし、それどころか、国際社会は現在、各国の国内規制の寄せ集めに直面する事態となっている。結果として、テロリストに対する原子力のパンドラの箱が開いたままになっているのだ。
 もちろん、仕組まれたものであれ偶発的な事故であれ、チェルノブイリや福島の二の舞を避けられるのであれば、セキュリティ強化の代償は安いものだ。強化に向けた具体的な措置としては、訓練を受けた武装警備隊の適切な配置、重要区域への物理的障壁の設置、探知・警報・連絡システムの整備、テロリストらの潜入阻止を目的とした全従業員の注意深い審査などが挙げられる。
 
 だが、残念ながら、慣性を考えると、私たちが行動を起こすためには、意図的なチェルノブイリの発生を待たねばならないかもしれない。核関連の批評家たちは何十年にもわたり原子炉がテロの標的になる可能性があると危惧してきたが、原子炉の防衛が決して十分に行われてはこなかったことを考えてみてほしい。
 批評家らは、テロリストが、高機能の携帯型武器、携行式ロケット弾、自動車爆弾を使用したり、水辺または空から攻撃を行うことで原発の格納構造を破壊できると主張した。また、原発の重要なライフラインに対する内部からの妨害破壊工作により、炉心から致命的な放射能含有物が放出される可能性についても警鐘を鳴らした。
 しかし、これまで本格的な攻撃を受けたことがなかったため、 すっかり油断していたのだ。ベルギーは、昨年のパリのテロ攻撃を受けてようやく、武装警備隊を国内の原発に配備した。原発を有するほかの30ヶ国のうち、ベルギーと同様に悠長に構えていた国家はいくつあるだろうか?
 
事が起きないと考え方は変わらない
 そして、うぬぼれが露呈して恥ずかしい事態となっている。2012年に、スウェーデンの核施設に侵入したグリーンピースの活動家たちは2基の原子炉を取り囲むフェンスを剥がし、グループ内の4人が片方の原子炉の屋根の上で一晩中身を隠しとおした。2014年には、グリーンピースの別の活動家グループがドイツとの国境に近いフランスの原発に侵入し、原子炉建屋に大きな横断幕を掲げた
 これらの大胆な行為は、スウェーデンとフランスの両国、そしてひょっとするとほかの多くの国々において、発電所の警備体制に何らかの重大な問題があることを示している。
 
 国際原子力機関(IAEA)、世界原子力発電事業者協会(WANO)、そして欧州連合(EU)はいずれもガイドラインを定め、原子炉の警備と安全を強く求めている。これらの機関は、受け入れ国側の要求に応じて調査チームを派遣し、施設の警備を評価している。しかし、各国の警備体制を変えるよう強制することまではできない。
 一般的に、そうした考え方はそう簡単に変えられるものではない。仮説ではなく、実際に事が発生してようやく考え方を改めることができるのだ
 たとえば米国が自動車を使った爆弾テロから原発を守る基準の厳格化に動いたのは、1993年に世界貿易センター(WTC)の地下駐車場で起きた自爆テロがきっかけだった。
 そして、WTCを倒壊させた2001年の米同時多発テロ事件(9.11)発生を受けて、米原子力規制委員会(NRC)は、空港の保安チェックを強化すれば、原発に対する9.11型の攻撃は防げるかもしれないと判断して、防御体制を強化した。
 しかし、警備の面で金字塔を打ち立てたと主張している米国においてですら、大事には至らなかったものの、原発の警備体制の穴を突く攻撃が何度か起きたとされている。
 
1つでも起きればすべてが変わるが
 意図的な原発事故が1つでも起きれば、これまで無関心だった国々が劇的に警備の習慣を変えることは予期しておくべきだろう。そうなると、権限を持った国際組織が、問題解決に向けた計画を立てられるようになる。
 こうした計画は世界中のすべての原発に対して安全保障に必要な条件を強制するものになるべきだ。IAEAなどの認証機関が、そうした条件に基づき発電所の運営を管理することになろう。警備体制に不備が認められれば、運営主体が必要な改善を完了しない限り、その発電施設への認証は停止されることになろう。
 不運なことに、こうした種の予防的措置が実施に移されるには、まずは意図的なチェルノブイリが起きるまで、待たねばならないようだ
 
筆者のベネット・ランバーグ氏は、ジョージ・H・W・ブッシュ政権当時に政治軍事局の政策アナリストを務めた。著書に「敵の武器としての原子力発電所("Nuclear Power Plants as Weapons for the Enemy")」がある。この記事は同氏個人の見解に基づいている。