河北新報の <震災と憲法>シリーズは、今回の(6)被災地で活動する滝上明弁護士(災害が人権侵害に直結)で終了です。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
<震災と憲法> 災害が人権侵害に直結
河北新報 2016年5月7日
◎被災地から考える(6完)被災地で活動する滝上明弁護士
東日本大震災と東京電力福島第1原発事故に見舞われた被災者は、個人の尊重と幸福追求権、居住移転の自由、生存権など憲法に関わる数多くの問題に直面している。釜石市を拠点に、災害弱者らの権利擁護に奔走してきた滝上明弁護士(44)に憲法を巡る現場の状況を聞いた。
(聞き手は報道部・畠山嵩)
<生存権守られず>
-震災から5年2ヵ月。今も避難生活を送る被災者が約16万5000人もいます。
「仮設住宅で暮らす高齢者の多くが『ここで死にたくない』と悲痛な叫び声を上げている。孤独死も解決できていない。仮設は夏は暑く冬は寒い。長期間住む場所ではなく、あくまで仮の住まい。最低限の暮らしが守られず、生存権を保障していないのは明らかだ。人権の危機が続いている」
-仮設の被災者への聞き取りで見えてきたものは。
「住宅の二重ローンに悩む人がかなりいた。2011年8月に個人債務者の私的整理に関するガイドラインが施行され、推進しようと考えた。被災地全体で1万件を見込んだが、金融機関の周知が不足し、実際の申し込みは1割強にとどまった」
「二重ローンに耐えられず、自宅再建を断念する被災者も多い。住宅ローンだけが残り、経済活動の自由や財産権が損なわれる。既存の法制度が負担を被災者のみに背負わせ過ぎているためだ」
-原発事故でも居住の自由が危ぶまれています。
「居住移転の自由の確保は復興への第一歩。それすらできない人が山のようにいる。場所によっては先祖伝来の土地を全て失った人も。土地は歴史そのもの。被災者は歴史を喪失したと言える」
<権限移し対応を>
-緊急事態条項の創設が議論を呼んでいます。
「既存の法律すら生かしきれないのに、災害のために憲法を変える必要があるのか。災害を利用しているだけ。国はお金や知恵で被災地を支援すべきだ。首長ら現場の責任者に権限を分散させ、現場即応型で対応した方がうまくいく」
-熊本地震でも約1万5000人が避難生活を強いられ、再び憲法の理念が問われる事態になっています。
「東北の被災地でもそうだが、障害者や経済力のない高齢者ほど権利の危機にさらされやすい。今後、一気に被災者間の復興格差が広がる可能性がある」
「震災後、弁護士の間で災害は人権侵害に直結するとの認識が急速に広がった。一般には、災害=人権問題という意識は低い。災害は人権侵害を起こす端緒になりやすい。弱者ほど権利保護が必要という観点を忘れず、社会全体で災害に対応して次に備えるべきだ」
☆たきうえ・あきら 71年生まれ。京大農学部、大阪大法学部卒。05年弁護士登録。06年11月、釜石ひまわり基金法律事務所の初代所長に就任し、震災の約3週間前まで在任した。11年7月、震災復興を目指す岩手はまなす法律事務所を釜石市に開設。14年7月に閉所。