東京新聞 2016年5月9日
原発大国フランスや隣国ベルギーの老朽化する原発をめぐり、近年、ドイツやスイスなど周辺国から廃炉や停止要求が相次いでいる。二〇一一年の東京電力福島第一原発事故を受け、脱原発や再生可能エネルギーへの転換の動きが進む欧州。老朽原発を維持する国々に対し、国境をまたぎ安全性への懸念が深まっている。 (パリ・渡辺泰之)
本紙の調べで、要求が出ているのは、フランスのフェッセンハイム(二基)、ビュジェ(四基)、カトノン(四基)、ベルギーのドール(四基)とティアンジュ(三基)の五カ所で、いずれも国境近くに立地する。多くが一九七〇年代半ばから八〇年代半ばに運転を開始し、すでに三十~四十年が経過している。
ドイツとルクセンブルクに近いカトノン原発については、独環境政党の緑の党が「十分に安全が確保されていない」として閉鎖を要求。ルクセンブルクのベッテル首相も四月、フランスのバルス首相との共同会見で廃炉を求めた。
ビュジェ原発に対してはスイスのジュネーブ市などが三月、原発の稼働で「生活を脅かされている」として仏裁判所に提訴する事態に発展している。独国境にある仏最古のフェッセンハイム原発については、政府が廃炉方針を表明しているが、具体的な時期については正式に決まっておらず、独政府が早期閉鎖を求めている。
仏原子力安全局は国内の原発の安全性について、昨年四月に公表した報告書で「(二〇一四年は)全体的に十分に満たされている」と記している。
仏政府は二五年までに、総電力量に占める原発比率を現状の76%から50%に低減する目標を掲げる。一方で、原発の運転期間を四十年から十年間延長する方向でも議論が進む。ロワイヤル環境相も今年二月末、仏原子力安全局の承認を条件に「(延長を)認める用意がある」と発言。老朽化した原発が今後、どのくらい閉鎖されるかは不透明な情勢だ。
ベルギーでは、原子炉圧力容器に微細なひびが見つかり、検査後に規制当局が再稼働を決めたドール、ティアンジュの一部の原発に対し、独政府などが運転停止を求めている。
ベルギー政府は運転開始四十年を迎えた原発を段階的に停止して二五年までに全廃する計画だった。しかし、ドール、ティアンジュ計三基について、「電力の安定供給」などを理由に原発の十年間の運転延長を決定しており、周辺国が不安視している。両原発は三月のベルギー同時テロ直後、テロの標的になることを懸念したベルギー政府が警備を大幅に強化した経緯もある。
◆日本でも運転延長の動き
日本では東京電力福島第一原発事故後、原発の運転期間は原則40年に制限された。ただ原子力規制委員会が認めれば、1回に限り最大20年間の運転延長ができる。
運転延長は例外中の例外とされていたが、規制委は今年4月、関西電力が運転延長を目指す高浜原発1号機(運転開始は1974年)と2号機(同75年)について、新規制基準に適合していると判断した。
7月7日までに規制委が延長を認可すれば、対策工事を施した上でさらに最長20年の運転が可能になる。関電は美浜原発3号機(同76年)でも運転延長を申請している。
新規制基準下で廃炉が決まっている原発は、日本原子力発電の敦賀1号機(同70年)、美浜1号機(同)と2号機(同72年)、中国電力島根1号機(同74年)、四国電力伊方1号機(同77年)、九州電力玄海1号機(同75年)の計6つ。