2018年9月8日土曜日

08- トリチウム水処理 公聴会 詳報

 産経新聞が【原発最前線】シリーズで、8月30日・31日に3カ所で行われた福島原発にたまり続けるトリチウム水の処理問題についての公聴会を取り上げました。
 延べ44人の意見陳述者中で、海洋放出すべきだとする意見は富岡、郡山会場でそれぞれ1人であったことが分かりました。
 国や規制委の考えは海洋放出しかないというものでしたが、これほどまでに反対意見が多くては、さすがに強行するわけには行きません。
 国の意向とは裏腹に、海洋放出以外の方法(タンク保管等)に拠るという流れになったのは喜ばしいことです。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 【原発最前線】
トリチウム含む処理水の海洋放出に批判続出 「報道」が反発煽る?
公聴会の議論かみ合わず
産経新聞 2018年9月5日 
 東京電力福島第1原発にたまり続ける放射性物質トリチウムを含んだ処理水の問題について、国の有識者会議が8月末に福島県と都内で開いた初めての公聴会は、解決の「困難さ」を世に示す機会となった。有力視された海洋放出には反対意見が相次ぎ、合意形成の道筋は見えていない。(社会部編集委員 鵜野光博)
 
「前提」にズレ
 公聴会は8月30日に福島県富岡町、31日に同県郡山市と都内で開かれ、それぞれ14人、14人、16人が意見表明者として参加した。事務局の資源エネルギー庁によると、公募の申請者が10~15人の想定数にほぼ収まったため、抽選は行わなかったという。
 
 3会場では処理水の海への放出に反対する意見が大半を占めた。ただ、議論の前提で複数の掛け違いが生じていた。
 その原因の一つは、公聴会前の8月19日以降、処理水を貯蔵しているタンク内にトリチウム以外の放射性物質が残っていると一部で報じられたことだ。公聴会の主催は「多核種除去設備等処理水の取り扱いに関する小委員会」で、先行設置された「トリチウム水タスクフォース」以来、有識者は足かけ6年にわたってトリチウムを含んだ処理水の処分策について検討してきた。しかし、タンク内にヨウ素129などが残留しているとの報道を受け、意見表明者の多くは「公聴会の前提が崩れた」と批判し、予定通り開催したことに抗議する人もいた。
 
 もう一つは、トリチウムの性質について認識が共有されていないことだ。小委は風評被害対策が大きな検討テーマで、風評被害の意は「根拠のない噂や憶測などで発生する経済的被害」(大辞林)とされる。公聴会の資料は「トリチウムは自然界にも存在し、全国の原発で40年以上排出されているが健康への影響は確認されていない」と管理下での安全性を強調したが、海洋放出に反対する人の大半はこの前提に立たず、トリチウムを含んだ水を放出すること自体を危険とみなした。「風評ではなく実害」の立場では、風評被害対策の議論は成り立たない。
 
規制委員長批判も
 処分方法について海洋放出の「結論ありき」という受け止めも、掛け違いの一因となった。
 タスクフォースでは平成28年6月、処分方法を地層注入▽海洋放出▽水蒸気放出▽水素放出▽地下埋設-の5つに絞り込み、同年11月に設置された小委はメンバーに社会学者を入れてさらに検討を加えている。前出資料では海洋放出がコスト面などで有利なことが読み取れるが、小委として結論は出していない。
 ところが、廃炉作業の安全性を監視する原子力規制委員会では、更田(ふけた)豊志委員長が科学的見地から「希釈して海洋放出が現実的な唯一の選択肢」と記者会見で述べている。意見表明者からは「規制委が汚染水海洋投棄の旗振りをしているのは本末転倒だ」などと批判も出た。
 「結論ありき」の指摘に小委の委員が「(海洋)放出とは一切言っていない。勝手に言っているのは原子力規制庁だ」と強い口調で反論する場面もあった。
 
「説明受けていた」
 最初に触れたトリチウム以外の放射性物質が残っていることについては、小委委員長の山本一良(いちろう)名古屋学芸大副学長が30日の公聴会終了後、報道陣に「最初の段階で説明を受けていた」と明かし、「浄化装置で取れるものと取れないものとを区別し、取れないトリチウムに重点を置いて検討してきた。個人的には処分に当たってトリチウム以外を除去するのは前提だと考えている」と説明した。
 
 つまり、トリチウム以外は「除去しようとすればできる」ため、議論をトリチウムに絞ったということだ。ただ、公聴会資料では「タンクで貯蔵している処理水の性状」でヨウ素129が検出限界値以下(26年の数値)とされており、タンク内の現状について誤解を招くことは否定できない。
 それでも、報道が公聴会の議論に与えた影響は、放射性物質に過敏に反応する人心の問題としても今後検証されるべきだろう。
 
当事者になれるか
 海洋放出すべきだとする意見は富岡、郡山会場でそれぞれ1人の男性が表明。どちらも風評被害を防ぐため、全量検査を行ったコメと同じように、放出に当たってトリチウム濃度の全量測定を行うことが必要だとする考えを示した。
 富岡会場では漁業関係者2人が含まれ、試験操業に携わってきた漁師の小野春雄さんは「福島の海に放出することだけは絶対に反対。本格的な操業がまた何年も遅れるばかりでなく、漁労技術も途絶えてしまう」と風評被害への不安を訴え、「目の前の海で自由に魚を捕れない苦痛を皆さん分かりますか。漁師が納得する方法を採ってください」。当事者の声が会場を圧倒した。
 
 海洋放出に反対する人々からは、代案として原発敷地内外でのタンク保存継続のほか、「経済産業省前か東電本社前で放出、保管すべきだ」と主張する声もあった。暴論のようだが、この問題を福島だけに押しつけず、より多くの人が「当事者」として向き合うために、「東京での処分」は一考に値するのかもしれない。
 トリチウムを含む処理水 東京電力福島第1原発で8月現在、約92万トン、タンク約680基分が貯蔵され、タンク増設が限界に近づいている。第1原発では原子炉建屋内に流入した地下水や、事故で溶け落ちた核燃料(デブリ)を冷却するための注水が汚染水となって増え続けており、東電は多核種除去設備(ALPS)で汚染水を浄化しているが、トリチウムは除去できない。トリチウムは放射線のエネルギーが弱く、通常の原発では希釈した上で海に放出している。