原発事故影響 シイタケ原木今も制限 栃木県内里山林 荒廃進む恐れ
下野新聞 2018年9月9日
東日本大震災後の原発事故から11日で7年半。県内を広く汚染した放射性セシウムの影響は低下しつつあるものの、食味に優れる原木シイタケの栽培に使う県内のクヌギやコナラの原木林は、主産地の茂木町をはじめ今も無条件で使える状況にないのが現状だ。「原木として利用し、切り株から出る萌芽(ほうが)を育てて資源を循環させないと里山林の荒廃が進む」と関係者の間では懸念が強まっている。
「少し前ならいい山だったが、チップにしかならないこんな山がたくさんある」。茂木町の芳賀地区森林組合の富田和守(とみたかずもり)事業課長(43)は、同町小山の山林を指して嘆く。一見豊かに育ったかに見える里山のクヌギやコナラは太さ25~30センチほどの大木になり、ほぼ使い道がない。
県は事故後、安全安心な原木シイタケ生産のため、可能な限り汚染されていない原木を使うよう推奨。県林業木材産業課によると、事故前は原木の8~9割を県内産で賄っていたが、今年春の植菌用では約45万本のうち県内産は28%にまで減少、汚染されていない大分産などが72%を占める。
同課は昨年度、放射性セシウムの影響が大きかった県北地域を除く県内27カ所で、原木林として使えるか適否を調査。条件を満たしたのは18カ所にとどまった。菊池和司(きくちかずし)副主幹(47)は「3分の1は原木林に適さなかった。油断できない」と指摘する。
県は県林業センターの調査研究を踏まえ、昨年12月以降シイタケ原木使用の適否を判断する個別の検査を厳格化した。食品の安全安心を徹底するためだ。「国の基準では汚染木が紛れ込む恐れがある」と同課は懸念しており、今後も当面この対応を継続する方針だ。
県内主産地の芳賀地区森林組合も「緩い検査で基準値を超えたシイタケが出回ったら『どこの原木か』となる」と警戒を緩めず、県の対応に理解を示す。しかし事故前の2010年度に9万2600本あった原木の出荷数は、回復傾向とはいえ昨年度5万2400本と遠く及ばない。「出荷できる山を探すのが大変」(富田課長)という。
やむなく西日本の購入原木を半分使う茂木町小深(おぶか)、原木シイタケ生産農家桧山宗一(ひやまそういち)さん(61)は「事故直後に比べれば先は見えてきた」と、今後の回復に期待した。