人民新聞が小出裕章さんをインタビューしました。小出さんがこのブログに登場するのは久しぶりです。
小出さんは早い段階から、汚染水を石油タンカーに受け入れて柏崎刈羽原発で処理することを提案し、福島原発は最終的にはチェルノブイリ原発と同様に「石棺」で封じるしかないのではないのかと主張した人です。
汚染水の問題はいまだに全く片付かずに、福島原発のあるべき「最終像」についても全く固まっていません。
小出さんはまた、福島原発事故後に国がそれまで1ミリシーベルト以下であった年間許容被曝量を廃して、20ミリシーベルト以下の地域には居住できるとした根拠になったのが、事故後に出された「原子力緊急事態宣言」であるとして、事故後7年半も経つのにいまだにそれが維持されているのは大問題であると指摘しました。
また原発の再稼働については、原子力規制基準は安全を保障するものではなく、機械がいつかは壊れるのは当たり前なので、いずれ大事故を起こし大変な被害が出ることは必然であるとしています。
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特集―福島原発事故7年(1)
7年続く緊急事態宣言 大事故招く原発再稼働
小出裕章さん(元・京都大学原子炉実験所助教)インタビュー
人民新聞.com 2018年9月8日
福島原発事故から7年。放射能放出は今も続くが、国は全て覆い隠し原発再稼働や避難区域の解除を続けている。元京大助教授の小出さんに全体状況と問題点を聞いた。また福島の状況や関東の放射性廃棄物、台湾での福島復興宣伝の問題などもお伝えする。(聞き手:山田)
汚染水と炉心取り出しが最大の問題
問題を大きく分けると、敷地の内と人々が住んでいる外の二つです。敷地内はさらに(1)汚染水の問題と、(2)熔け落ちた炉心の取り出しの問題に分けられます。
海への放出しかない汚染水
まず(1)汚染水ですが、熔解した炉心は原子炉建屋内にあるといわれてきましたが、地震によって建屋の地下部分が崩壊し、毎日400トンもの地下水が流れ込んできていました。東電は凍土壁を作り流入を防ごうとしましたが、今でも毎日100トンもの地下水が流れ込んでいます。
汚染水を貯めるタンクは既に1000基近くにのぼり、汚染水は100万トンにまで達しています。敷地にも限りがあり、タンクを作る余地すらなくなりつつあります。東電は汚染水処理技術で放射性物質を除去しようとしていますが、トリチウムという放射性物質は、この処理技術で取り除くことは絶対にできません。このトリチウムを含んだ汚染水は既に80万トンあり、東電は近い将来「海に流す」と言い出すでしょう。
もう一つの問題は、どこにあるかすらわからない膨大な放射能を抱えた炉心です。しかし国と東電が制作したロードマップでは、40年ほどの間に炉心を見つけ出し容器に封入すると書かれています。仮にうまく炉心を容器に入れられたとしても放射能が消えるわけではありません。何十万年と保管し続ける必要があるので、炉心回収が事故の収束であるはずがないですが、彼らはそれを収束だと言っています。
さらに、そもそも炉心の回収はできません。ロードマップで東電は、炉心は圧力容器の真下に饅頭のように堆積していると想定していましたが、私は有り得ないと言い続けてきました。熔けた炉心は圧力容器から飛び散り、格納容器という放射能を閉じ込める最後の防壁として設計された容器の中、あるいはそこからも飛び出して分散しています。このことは昨年、2号機の中にカメラを差し込み調べたときに裏付けられました。このため東電は、ロードマップを書き換えましたが、近い将来に「炉心の取り出しを諦める」と言い出すでしょう。
できることはチェルノブイリ同様石棺しかない
チェルノブイリでは、最初の石棺が30年で老朽化し、2016年にその石棺をより大きな第二石棺で覆いました。第二石棺の寿命は100年ですが、福島も同じ状況になると思います。私はもちろん、今、赤ん坊である人たちすら収束を見ることのできない事故が、今も続いているのです。
次に(2)敷地外です。最初に指摘したいのは、7年前に発令された「原子力緊急事態宣言」が今も解除されていないことです。この宣言により、年間で1mSv以上の被ばくを禁止するという法律は停止されました。
放射性物質はとても危険なので、取り扱うのは放射線管理区域だけです。かつての私のように、放射線業務従事者と呼ばれる人だけが入ることができ、飲食や排泄もできない特殊な場所です。
しかし今、福島を中心に本来ならば放射線管理区域に指定しなければならないほど汚染された場所が広大に存在し、普通の人々が生活しています。
汚染の主要因であるセシウム137という放射性物質は、100年で10分の1まで減りますが、それでも放射線管理区域の基準を超える広大な地域が残ります。除染作業が続けられていますが、実態は汚染を別の場所に移す「移染」という作業でしかありません。それも範囲は住宅地や校庭だけで、広大な山林や田畑には行わず、汚染が残り続けるので、緊急事態宣言は100年経っても解除できないのです。
復興を叫ぶより被ばくから守る
―大飯と玄海原発の再稼働が予定されていますが
小出…原子力発電所は膨大な危険物を内包している機械です。機械が壊れるのは当たり前ですし、これを動かす人間が誤りを犯すことも避けられません。いつか事故を起こし、大変な被害が出ることは必然です。だから原発を進めてきた推進派も、原発を都会には建てないと決めたのでした。
福島原発事故で多くの人が大変な困難を負わされましたが、推進派はそれでも再稼働を進めています。彼らは再稼働のための新規制基準をクリアしたと言いますが、その基準は安全性の保証ではありません。
前原子力規制委員長の田中俊一氏は、審査書を出すたびに「規制基準に合致はしたが、安全だとは申し上げない」と言い続けてきました。再稼働すれば福島のような事故が起きることは、技術的に評価すれば当たり前です。玄海、大飯原発の再稼働を許すなら、大事故を覚悟するしかないのです。日本に住むすべての人がこの重要性に気づいてほしいと思います。
福島では「何よりも復興だ」と皆さん言っています。「福島を守ろう」というポスターがあちこちに貼ってあり、私が「何から守るのですか?」と聞くと、「風評被害からだ」と言うのです。しかし、福島を中心に広大な大地が「事実」として汚れているのです。風評からではなく被ばくから住民を守るべきですが、国は緊急事態宣言により人々を被ばくさせ続けています。
復興への気持ちはわかりますが、それは赤ん坊や子どもも含めて被ばくさせてしまうことになるのです。今は復興を叫ぶより、まず人々の被ばくを軽減すべきだと思います。