2018年9月12日水曜日

原木椎茸被害の法的解決 損害賠償は原子力ADRへ

 農協組合新聞に、原子力ADRの特徴とメリットについて、原木椎茸被害を例にした護士による説明が載りましたので、紹介します。
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原木椎茸被害の法的解決 損害賠償は原子力ADRへ
農協組合新聞 2018年9月11日
 東京電力福島第一、第二原子力発電所事故が平成23年3月11日に発生してから7年が経過しました。しかし、農林業においては、原子力発電所事故による放射性物質の影響による被害がまだ続いています。私は、原子力発電所事故により被害が生じた原木椎茸生産者の代理人として、東京電力ホールディングス株式会社(東京電力)に対して、原子力損害賠償紛争解決センターへの和解仲介手続(原子力ADR)の申立てをしてきました。そこで原子力ADRについて紹介させていただきます。石塚大作弁護士
 
 原子力ADRとは、原子力発電所事故の放射線の影響により生じた東京電力が負う損害賠償に関する紛争について円滑、迅速かつ公正な解決を図ることを目的として設置された原子力損害賠償紛争解決センターでおこなわれる和解仲介手続です。原子力ADRにおいては、弁護士である仲介委員及び調査官により、当事者から提出された書面等による審理がおこなわれます。また必要に応じて当事者が出席する口頭審理期日が開催されることもあります。審理の参考とされるのは、原子力損害賠償紛争審査会が定めたいわゆる中間指針と原子力損害賠償紛争解決センターの総括委員会が定めた紛争解決の基準である総括基準になります。
 原子力ADRの特徴として、(1)申立手数料が無料であること、(2)訴訟のような厳格な立証が要求されないこと、(3)非公開手続であること、が挙げられます。
 
 原子力ADRのメリットは東京電力への直接請求手続と異なり、中立的な立場にある原子力損害賠償紛争解決センターの判断による和解案が提示されることです。また、直接請求手続における東京電力の提示金額より低額の和解案が提示されることもありません。さらに、損害を証明するために必要な資料が存在しない場合には柔軟な対応がなされます。
 審理期間は一般的に6か月程度とされていますが、原木椎茸の事案の場合、事案の複雑性等のため1年程度を要することがありました。それでも裁判による解決よりは早いことになります。
 
 具体例としては、直接請求では認められなかった原子力事故前からの栽培規模の拡大計画が原子力ADRでは認められ、約3500万円の賠償が認められた事例があります。また、直接請求手続では会社全体の利益を基準として賠償額が算定されましたが、原子力ADRでは事業部門の利益を基準として賠償額を算定することで、約1000万円の増額が認められた事例があります。これらの事例は、今後の原子力ADRの参考になるものとして原子力損害賠償紛争解決センターのホームページ上で公表される予定です。
 
 このように原子力ADRは、原子力発電所事故により生じた原木椎茸生産者の被害について、東京電力の提示した賠償金額が妥当でない場合に柔軟に審理を進め、法律的観点から適切な和解案を提示しました。原木椎茸以外の農林業者に生じた被害の場合にも同様の審理がなされるといえます。
 多くの農林業者はこれまで、直接請求手続において東京電力の基準で算定された賠償金を受領してきました。しかし、原子力ADRを利用すれば賠償金額が増加する多くの事案があると思われます。直接請求における賠償金額に疑問がある場合には、十分な被害回復の観点からも原子力ADRを活用することを積極的に検討していただければと思います。