2017年12月16日土曜日

伊方原発差止仮処分 広島高裁決定に対する弁護団声明ほか

 伊方原発3号機について広島高等裁判所13日、運転停止の仮処分(停止期限は2018年9月30日まで)命じたことについて、原告弁護団と日弁連会長が高く評価する声明を出しました。
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(広島高裁決定を受けて)
2017年(平成29年)12月13日
伊方原発運転差止広島裁判弁護団
広島高裁第2部(野々上友之裁判長,太田雅也裁判官,山本正道裁判官)は,本日,伊方原発3号機運転差止仮処分命令申立却下決定に対する即時抗告事件において,伊方原発3号機の運転差止を命ずる仮処分を求める住民らの申立てに対し,平成30年9月30日までの期限をつけて運転を差し止める旨の決定を出した。

高等裁判所として現実に原発の運転禁止を命ずるのは,史上初であり,また,被爆地ヒロシマの裁判所においてこれ以上放射線による苦しむ人々を増やさない決定がなされた意義はひとまず大きい。これによって,四国電力は,伊方原発3号機について,現在行なわれている定期検査に伴う運転停止を終えた後も(送電開始予定日は2018年(平成30年)1月22日),運転を再開することはできなくなった。

もっとも,本決定の内容については,原発の危険性について正しく認定していない点も見られる。
   特に,傍論とは言いながら,地震動に対する原発の安全性については,地震科学の不確実性を見誤って事業者の楽観的な主張を踏襲している点,地震本部の策定したいわゆるレシピを絶対視して不確実性を踏まえない点で,福島第一原発事故の教訓を活かしきれておらず,再び深刻な事態が生じかねない内容となっている点で極めて不当である。ただし,これらの点はあくまでも傍論であり,判例的価値は有しないと考える。

なお,本訴において証拠調べをするためとの理由で平成30年9月30日までの期限付の差止めとしている点でも不合理である。現在本訴において証拠調べ等の審理の見通しは立っていない状況であり,被告側は反論すら出していない。
  そもそも,本決定で示された差止の理由は,火山事象に対して全面的に本件原発が安全性を有していないという点であり,火山ガイドの抜本的な見直しや十分保守的な対策が講じられない限り,期限を経過したとしても,本件原発が安全でないという事実は何ら変わるものではない。
  9月30日が迫った段階で本訴が終了していない場合,我々は,改めて本原発差止仮処分の申請をする予定である。また,四国電力に対しては,上記期限を経過した後も,本件原発を再稼働しないことを強く求める。

福島第一原発事故が発生してから6年9か月以上もの長い時間が経過した現在において,その被害は収束するどころか,深刻さを増している。国からは避難指示解除によって事故前の基準の20倍も汚染された地域で生活するように強いられ,必死の思いで避難して,ようやくみなし仮設住宅に落ち着いた人たちは,その住宅の明け渡し請求訴訟まで起こされている。避難指示が解除されても,汚染された地域へ戻る人は少なく,ふるさとの存続が危ぶまれる状況にある。

私たちは,本決定が現実に本原発の運転を差し止めたという事実を高く評価する。また,火山事象に対する問題点は,全国の原発においても同様に当てはまる問題であるから,他の原発においてもこの点を追求していく。原爆を投下され被爆を強いられた広島の地において二度と放射線による被害(被曝)を受けることを拒否するという申立人らの思いが実現するよう,原発事故による被害が二度と生み出されなくなるまで,闘い続けることを宣言する。
 


伊方原発差止仮処分広島高裁決定に対する会長声明

本日、広島高等裁判所は、四国電力株式会社に対し、伊方原子力発電所(以下「伊方原発」という。)3号機の原子炉について、周辺住民の人格権侵害に基づき、運転の差止めを命じる仮処分決定を言い渡した。

これまで、福井地方裁判所が、2014年5月に大飯原子力発電所3、4号機の運転差止めを命じる判決を言い渡し、2015年4月には高浜原子力発電所(以下「高浜原発」という。)3、4号機の運転差止めを命じる仮処分決定を言い渡した。また、大津地方裁判所でも2016年3月に高浜原発3、4号機の運転差止めを命じる仮処分決定を言い渡している。これらはいずれも地方裁判所での判決・決定であり、今回、初めて高等裁判所において仮処分の請求を認容し、2018年9月30日まで原子炉の運転の停止を命ずる決定を言い渡したことは、極めて意義のあることである。

今回の決定は、原子力規制委員会の定めた火山ガイドの評価手順に従い、伊方原発から130キロに位置する阿蘇カルデラについて原子炉の運用期間中に火山の活動性が十分小さいと判断することはできず、噴火規模を推定することもできないから、過去最大の阿蘇4噴火(約9万年前)の噴火規模(火山噴火指数7)を想定すべきで、阿蘇4噴火時の火砕流が伊方原発敷地に到達した可能性が十分小さいと評価することはできないから、伊方原発の立地は不適であると判断したものである。同様の事実は、川内原子力発電所に関する福岡高等裁判所宮崎支部決定(2016年4月6日)や、本決定の原決定である広島地方裁判所決定(2017年3月30日)においても認定されていたが、原子力発電所(以下「原発」という。)の運用期間中に破局噴火が発生する可能性が示されない限り、これを停止させることは社会通念に反すると判断して、住民の請求を認めなかった。

しかし、本決定は、原子力規制委員会が最新の科学技術的知見に基づいて定めた火山ガイドが考慮すべきと定めた自然災害について、社会通念を根拠に限定解釈をして、判断基準の枠組みを変えることは、原子炉等規制法及びその委任を受けて制定された新規制基準の趣旨に反すると判断した。さらに、火砕流噴火よりも小さい規模の噴火の際の降下火砕物の層厚と、大気中濃度の想定も過小評価であると認め、運転の差止めを認めたものである。

本決定は、国民の生存を基礎とする人格権に基づき、国民を放射性物質の危険から守るという観点から、司法の果たすべき役割を見据えてなされた、画期的決定であり、ここで示された火砕流噴火に関する判断は九州、四国、北海道、東北の原子力施設に、降下火砕物に関する判断は、他の全ての原子力施設に当てはまる

当連合会は、2013年の人権擁護大会において、いまだに福島第一原発事故の原因が解明されておらず、同事故のような事態の再発を防止する目処が立っていないこと等から、原子力発電所の再稼働を認めず、速やかに廃止すること等を内容とする決議を採択している。本決定は、この当連合会の見解と基本的認識を共通にするものであり、高く評価する。

当連合会は、四国電力株式会社に対し、本決定を尊重することを求めるとともに、政府に対して、本決定を受けて従来のエネルギー政策を改め、できる限り速やかに原発を廃止し、再生可能エネルギーを飛躍的に普及させ、これまで原発が立地してきた地域が原発に依存することなく自律的発展ができるよう、必要な支援を行うことを求めるものである。

2017年(平成29年)12月13日
日本弁護士連合会
 会長 中本 和洋