原発事故で浪江町から静岡県富士市に避難した夫妻が、事故後に息を引き取った愛犬を主人公にして故郷への思いをつづる絵本「手紙 お母さんへ」を出版しました。
絵本にしたのはみんなに手に取ってもらいたいからでした。
絵本は口コミで広がり、初版の千部は一カ月で売り切れ、さらに二千部を重版しました。
中日新聞の記事を紹介します。
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原発避難、涙色の絵本 富士市の夫妻出版
中日新聞 2017年12月10日
◆福島県浪江町から移住 亡き愛犬が主役
二〇一一年三月の東京電力福島第一原発事故で、原発から二十キロ圏内の福島県浪江町から富士市に移り住んだ学習塾経営の堀川文夫さん(63)と貴子さん(64)夫妻が、絵本「手紙 お母さんへ」を出版した。事故後に息を引き取った愛犬を主人公にして故郷への思いをつづる。絵本にしたのは、みんなに手に取ってもらいたいから。東日本大震災から十一日で六年九カ月-。
「3月11日2時46分、それはそれはおおきな地震がおこりました。かわらの落ちる音や、壁が崩れる音がこわくて、桃は立てなくなってしまいました」
「桃」は雌のゴールデンレトリバー。生まれ故郷の浪江の町が大好きだったが、原発事故で故郷を離れたことで、文夫さんと貴子さん、桃も心身を崩してしまう様子が描かれている。
「浪江のおうちに帰りたいよ」
浪江町を離れてから一年三カ月後の一二年六月、桃は十一歳で天に召された。
絵本の制作を思い立ったのは、昨年十一月。解体が近づく浪江町の家の退去作業に立ち会ったことがきっかけだった。
文夫さんが幼いころから親しんだハーモニカや、高校時代に初めてもらったラブレター、使い慣れた食器など、浪江町で暮らした証しが無造作にフレコンバッグ(大型の袋)に詰め込まれていった。放射能汚染の恐れがあるという理由で、廃棄物にされた。
涙を流しながら作業を見守る文夫さんに、貴子さんは寄り添って「みんなこんな思いをしてるんだ。書き留めておかなくちゃ」と考えた。
初めは文章だけで表現するつもりだったが、どうしても原発への憤りや主張が目立ってしまう。原発問題に関心が高くない人にも読んでもらいたいと、絵本に仕立てた。
浪江町でも学習塾を開いていた文夫さんと貴子さん。二十八枚の絵は夫妻と二人の息子、孫に加え、浪江の教え子やその子、富士の教え子の計十九人で描いた。フェイスブックで協力を募った十~四十代の教え子からは手紙付きで原画が送られてきた。
次男は、子どものころによく遊んだ同町請戸(うけど)地区の海を描いた。父親が東電で働く教え子は、事故の収束作業に当たる作業員の手袋の色まで再現。色鉛筆や絵の具など画材も筆遣いもばらばらだが、「みんな同じような思いを抱えているから、不思議な統一感が生まれた」と文夫さんは話す。
絵本は口コミで広がり、初版の千部は一カ月で売り切れ、さらに二千部を重版した。「ペットとの避難や放射能のこと、原発事故とは何なのか。本を読んで考えるきっかけにしてほしい」と願う。
絵本は税込み千円(送料別)。注文や問い合わせは堀川文夫さん=電090(2847)9305=へ。 (松野穂波)