2018年10月17日水曜日

東電・武藤元副社長に 「無責任」「期待外れ」傍聴の被災者ら憤り

 東電福島原発事故を巡り、業務上過失致死傷罪で強制起訴された武藤栄元副社長(68は、16日の被告人質問で自身の責任を否定する発言を繰り返しました。
 要するに「聞いてない」「指示してない」の繰り返しで、ある被災者は「少しは真相が分かるかと思ったが、まるっきり期待外れ」と憤りました
 また「無責任でいいかげん。あの人が原子力部門のトップだったのだから、東電に原発事故を防げるわけないと絶望感を抱いた」との声も出されました。
 東京新聞の3つの記事を紹介します。
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東電元副社長 被告人質問 「無責任」「期待外れ」傍聴の被災者ら憤り
東京新聞 2018年10月17日
「まともに答える気がないのか」。東京電力福島第一原発事故を巡り、業務上過失致死傷罪で強制起訴された武藤栄元副社長(68)。十六日の被告人質問で自身の責任を否定する発言を繰り返す姿に、傍聴した被災者らは怒りの声を上げた。 (小野沢健太、山田雄之)
 
 当時の責任者の声を直接聞こうと、五十八の傍聴席に三百三十四人が申し込んだ。廷内に入れた被災者らは、武藤元副社長の言葉を逃すまいと耳を傾けた。
 この日、武藤元副社長の言葉にひときわ力が入ったのが、弁護人から仕事の信条を問われたときだった。「正直さ、誠実さ」。そう述べた上で、利益よりも安全性を優先させてきたと強調。傍聴席からはため息や失笑が漏れた。
 その後は「聞いてない」「指示してない」の繰り返し。ある被災者は「少しは真相が分かるかと思ったが、まるっきり期待外れ」と憤った。
「無責任でいいかげん。あの人が原子力部門のトップだったのだから、東電に原発事故を防げるわけないと絶望感を抱いた」
 
 東電旧経営陣らを告訴・告発した福島原発告訴団は閉廷後、東京・霞が関の司法記者クラブで記者会見し、告訴団の弁護団長の河合弘之弁護士が武藤元副社長の証言を厳しく非難した。
 
 武藤元副社長は、国の地震予測「長期評価」に基づいて高さ一五・七メートルの津波が起きる可能性を示した試算に対し「信頼性がない」と述べた。河合弁護士は「有識者の議論の結果であることに目を向けず、最初から試算を受け入れないと決めていた」と批判した。
 また、試算された津波の高さを下げられないか、部下に尋ねたとされる点について、武藤元副社長が「ありえない」と強く否定。海渡雄一弁護士は「当時の部下の調書に、はっきりと書かれている。部下にとってうそをつく必要は何もない。自分に不利なことは一切認めない姿勢が明らかだ」とした上で、「冒頭の謝罪は何のためだったのか。中身のない謝罪は被災者に対して失礼だ」と語気を強めた。
 
 
東電・武藤元副社長「大津波対策指示せず」 原発事故 強制起訴
東京新聞 2018年10月16日
 東京電力福島第一原発事故を巡り、津波対策を怠ったとして業務上過失致死傷罪で強制起訴された東電旧経営陣三人の公判が十六日、東京地裁(永渕健一裁判長)であり、津波対策の実質的な責任者だった武藤栄(さかえ)元副社長(68)の被告人質問があった。弁護側から、三人が出席した同社首脳による二〇〇八年二月の「御前会議」で大津波に対応する新たな方針が了承されたかを問われ、「方針が決まったことは一切ない」と全面的に否定した。
 
 公判の焦点は、旧経営陣が海抜一〇メートルの原発敷地を超える高さの津波を予測し、対策を取れたかどうか。中でも武藤元副社長は二〇〇八年六月、最大一五・七メートルの津波の可能性を試算した結果を部下から直接聞いていたとされ、危険性をどこまで認識していたかが注目されていた。
 これまでの公判では、〇八年二月の御前会議で原子力設備管理部門のナンバー2の社員が、国の地震予測「長期評価」に基づいて新たな津波予測を試算することを報告し、了承されたことが明らかにされていた。
 しかし武藤元副社長はこの日の被告人質問で、「この会議で長期評価が話題になったことはない」と否定した
 
 長期評価について知ったのは、同年六月の会合で、そのとき初めて一五・七メートルの試算を知ったとした上で「唐突感があり、この数字は一体何だろうと思った」と述べた。また長期評価について「(部下からは)『信頼性はない』と説明を受け、私自身もそう思った」と話し、部下に対策案を練るよう指示したかについては「私自身が『検討をしろ』と指示を受けたこともなかったし、対策を取ると決められるような状況ではなかった」と主張した。
 
 これまでの公判で検察官役の指定弁護士は「大津波は予測可能で、三人が費用と労力を惜しまず、義務と責任を果たしていれば事故は起きなかった」と訴えている。十六日午後には指定弁護士からの質問がある。
 ほかに強制起訴されているのは、勝俣恒久元会長(78)と武黒(たけくろ)一郎元副社長(72)で、いずれも無罪を主張。月内に被告人質問が予定されている。
 
◆技術面の実質責任者
 武藤栄元副社長は、東大工学部で原子力工学を専攻し、一九七四年に東電に入社。原子力発電部の原子力技術課長、福島第一原発技術部長など、技術畑を歩んだ。
 二〇〇五年六月、執行役員として原子力・立地本部副本部長に就任。〇八年六月には常務に昇格した上で同副本部長を務め、同原発の津波対策が議論された際は、技術面での実質的な責任者の立場にあった。
 一〇年六月には原子力担当の副社長となり、一一年三月の原発事故を迎えた。事故三日後の記者会見では、原子炉の炉心部が溶け落ちる「炉心溶融」が起きた可能性を把握していたのに、言及しなかった。
 
東京電力旧経営陣の刑事裁判> 2011年3月の福島第一原発事故で近隣病院の患者ら44人を死亡させるなどしたとして、東電の勝俣恒久元会長ら旧経営陣3人が業務上過失致死傷罪に問われた刑事裁判。福島県民らの告訴・告発を東京地検は不起訴としたが、検察審査会は二度にわたり「起訴すべきだ」と議決。3人は、原発の敷地の高さを超える津波を予見できたにもかかわらず、対策を怠ったとして16年2月に強制起訴された。
 
 
東電強制起訴 武藤元副社長「津波予測信頼性ない」
東京新聞 2018年10月16日
 原発事故を招いた大津波は本当に想定外だったのか-。東京電力福島第一原発事故を巡り、業務上過失致死傷罪で強制起訴された東電旧経営陣三人の公判は十六日、被告人質問が始まり、最大のヤマ場を迎えた。先陣を切った武藤栄(さかえ)元副社長(68)は津波対策のキーパーソン。「多くの方に言葉では表せないほどのご迷惑をかけた」と頭を下げる一方、大津波の襲来予測には「信頼性はないと思った」と疑問を呈した。(蜘手美鶴、小野沢健太)
 
 濃紺のスーツ姿で出廷した武藤元副社長。冒頭に原発事故への思いを問われると、「事故で亡くなられた方々、ご遺族らとても多くの方に言葉では表せないご迷惑をおかけしました。当事者として深くおわび申し上げます。誠に申し訳ございませんでした」と約三秒間頭を下げた。
 仕事の信条を問われ、強調したのが「正直さ、誠実さ」。利益よりも安全性を優先させる仕事のやり方を指導してきたとした上で、「誠実さはすべての仕事の基礎になる態度と思っています」と述べ、傍聴席からため息や失笑が漏れた。
 午前中の被告人質問が終わると、傍聴人からは失望の声が聞かれた。
 
 水戸市の菅野正克さん(74)は、父健蔵さん=当時(99)=が原発事故時、原発から四・五キロの双葉病院に入院しており、避難でたらい回しになった末、三カ月後に衰弱死した。「父に報告できるような裁判になればいいが、この様子では…」と表情を曇らせた。
 武藤元副社長が大津波の予測を信頼性がないと述べた点について「なぜそう思うのか詳しく説明せずに否定するだけ。理由が聞きたいのに」。「事故を起こした当事者なのだから、私たち遺族にも納得がいく説明をする責任があるはずだ」と強調した。
 福島県いわき市の佐藤三男さん(74)は「冒頭に誠実さを大事にしていると言うから、期待していたのに、やっぱり本当のことを話す気はないんだとがっかりした」。津波対策の話になると、早口になって自らの責任を否定するような発言を繰り返した武藤元副社長に対し、「彼は逃げているよ。被災者に向き合ってほしい」と注文した。