再生エネ100%の島=デンマークのサムゾ島が、全電力を風力発電で賄い、余った分を本土に売れるようになった起点は、1997年の京都議定書でした。
日本から戻った環境相が風力技術を成長産業にしようと考え、人口4000人のサムソ島が、発電量の全部を再生エネで賄うモデル地域に選ばれました。
島民200人も出資し、洋上と陸上合わせて風力発電21基を建て、2007七年までに電気の自給自足を果たしました。
その実現をけん引したソーレン・ハーマンセン氏(サムソ・エネルギー・アカデミー代表)に、東京新聞が同国の仕組みなどを聞きました。
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<原発のない国へ> 「再生エネ100%の島」実現をけん引
デンマーク・ハーマンセン氏に聞く
東京新聞 2018年10月11日
地震で被災した北海道電力の苫東厚真(とまとうあつま)火力発電所2号機が十日、再稼働し、同発電所が約一カ月ぶりに全面復旧した。全域停電でぜい弱さが鮮明になった「大規模集中型」に対し「小規模分散型」への移行を果たしているのが欧州。中でも先進的なデンマークで「再生エネ100%の島」の実現をけん引した。同氏は九月下旬訪日した。(池尾伸一)
-全域停電をどうみる。
「デンマークでは起こり得ない事態だ。日本は巨大な発電所から遠隔地に送電している。デンマークは地域ごとに風力、太陽光など発電所を持ち、電気を地産地消している。都会でもごみ焼却熱を活用した発電が盛ん。各地は網の目のような送配電線で結ばれ、風力の自然変動に応じ、電力を融通し合うことで電気を安定供給している。一地域の発電が事故で止まっても他地域から供給できる」
「私たちのサムソ島でも、本土の火力発電所に依存していた当時、事故で本土からの電気が途絶え全島停電した。それが約十年前から風力で100%の電力を自給自足し、余りを本土に売っている。本土とは二カ所でつながり、電力を融通し合っており新システム下で大停電は起きていない」
-再生エネを進めた結果、分散型になったのか。
「再生エネは発電量が自然変動し地産地消が基本となるため、送配電網もそれに合わせ再構築した。他の北欧諸国とも送電線がつながり融通し合っている」
-再生エネ化の経緯は。
「各国が温暖化ガス削減で合意した一九九七年の京都議定書がきっかけ。日本から帰ってきた環境相が、風力技術を成長産業にしようと考えた」
「そのために発電量の全部を再生エネで賄うモデル地域をつくることにし、公募で選ばれたのが人口四千人のわたしたちの島だ。島民二百人も出資し、洋上と陸上合わせて風力発電二十一基を建て、二〇〇七年までに電気の自給自足を果たした。サムソ島の実績を基に各地で再生エネ導入が広がった」
-成果は。
「固定価格買い取り制で価格は保証されていたため、出資した島民は最大で年利7%前後の配当を得ている。島は自然エネ先進地として世界的に有名になり、多数の観光客、見学客が訪れている。風力タービンも重要な輸出品になった」
-日本では送電線に余裕がないとして大手電力が再生エネ受け入れを事実上拒否する問題が生じている。
「送配電網は州など公的機関が持ち、再生エネを優先で受け入れなければならない法律がある。北欧諸国で共通したルールだ」
-日本で再生エネが進まない背景をどうみる。
「安倍政権は産業界と近いため、原発再稼働で産業界に当面の安いエネルギーを供給することが優先されているようだ。デンマークでは長期的戦略を重視した。日本でも電気自動車(EV)などを成長産業にしてはどうか。サムソ島でも自動車まで完全に化石燃料を脱するのが次の目標。日本が輸送分野で再生エネのリーダーになれば、世界への貢献は大きいはずだ」
<ソーレン・ハーマンセン氏とデンマークの政策> サムソ島で生まれ育ち、高校で環境問題を教えていたが、1998年から再生エネ化の指導者に転身。住民と対話を重ね具体化してきた。現在は再生エネを広めるために設立した学校、サムソ・エネルギー・アカデミーの代表。デンマークは同島などをモデルに「風力立国」を推進。国全体の昨年の総発電量に占める再生エネ比率は71%(日本は約15%)に達する。原発は80年代に導入しないと決定済み。2050年までに、自動車含め全エネルギー需要を再生エネ化する目標を掲げている。