2018年10月4日木曜日

英国原発事業で巨額損失リスク 東芝化する危険

 日立は英原発子会社、ホライズンを通じ、英国(アングルシー島で2基の原発の新設計画を進めていますが、建設価格の高騰や工期の延伸(遅れ)などのリスクが大きく、取締役会議で「本当に採算を確保できるのか」「有事の賠償責任は誰がどうやって負うのか」などの声が上がり、採決が出来なかったということです。
 当初の3社連合から既に日揮が抜け、ベクテルも中核的位置から外れ工程管理の監査役として残るという状態です。
 そうなるとリスクはホライズン社が一手にかぶることになりますが、実態は「ホライズン社=日立」なので、結局すべてを日立が被ることになります。
 
へたをすれば東芝の二の舞いになる」から「傷を深くしないために、即刻、英国原発から撤退すべきだ」という声が強いのですが、日立は安倍政権と二人三脚で原発ビジネスに推進するという構図が既に出来上がっているようで、そう簡単には降りられないようです。
 いずれにしても、最後のリスクは国民に負担してもらえばいいというのは絶対にゴメンです。
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日立製作所、「東芝」化の危険 
「撤退できない」 英国原発事業で巨額損失リスク浮上
 ビジネスジャーナル 2018年10月04日
 日本経済団体連合会(経団連)・第14代会長に就任した中西宏明日立製作所会長は、「国だけで国際関係をつくれる時代ではない」として、「これまでとは次元の異なる民間外交を通じ、国際社会での発信力・発言力を高めたい」と抱負を語った。
 中西氏は日立の社業で月に2、3回は海外に出張する。これに経団連会長としての海外出張が加わる。9月からは経済財政諮問会議の民間議員の仕事も始まった。社業と経団連会長の仕事の双方で大車輪だ。
 中西氏は5月3日、英国での原子力発電所事業をめぐり、ロンドンの英首相官邸でメイ首相と会談した。中西氏は、英政府に直接出資などの支援強化を要請し、両者は協議を加速させることで一致した。
 
 日立は英原発子会社、ホライズン・ニュークリア・パワーを通じ、英中西部アングルシー島で2基の原発の新設計画を進めている。
 日立は事業リスクを軽減するため、着工を最終判断する2019年までに、ホライズン社を連結対象外とする方針だ。そのためには英政府や地元企業のホライズン社への出資比率をどこまで高められるかが焦点となる。協議が難航した場合、日立は事業から撤退する可能性を残している。
 
 日立と英政府は6月4日、原発新設に関し、本格的な交渉に入ることで合意した。3兆円規模の事業費のうち、2兆円程度を英国側が融資する方針。残る約1兆円を日立、英政府と現地企業、日本の政府系金融機関や電力会社が3等分して負担する方向だ。
 これに先立ち5月28日、日立は臨時取締役会を開いた。
「本当に採算を確保できるのか」「有事の賠償責任は誰がどうやって負うのか」。何人かの取締役がネガティブ発言を繰り返した
 決を採れば賛成多数になるか分らない空気さえある。それでも事業費3兆円超のうち2兆円の融資を全額負担するなど支援を厚くした英政府の姿勢を評価して、当面の交渉を執行部に一任した。「中西さんの気迫が違った」と日立幹部は振り返る>(6月13日付日本経済新聞)
 こうして、日立は英政府と6月4日、事業推進に向けた覚書を交わした。
 
●3社企業連合が解散
 日立は8月22日、原発建設プロジェクトの体制を見直し、日米のエンジニアリング大手、日揮、米ベクテルと日立でつくった企業連合「メンター・ニューウィッド」を解散したと発表した。
 日立は12年、ホライズン社をドイツ企業から850億円で買収して完全子会社にした。この買収を決めたのが、当時社長だった中西氏である。
 発電所全体の工事を手掛けた経験がない日立は16年、日揮、ベクテルと3社連合を立ち上げた。原発の設計や建設業務の“統括者”にベクテルを選定。日立や日揮は原発の設備や建設工事を担うことになっていた。
 ところが、ベクテルは中核的立場から外れ、日立の原発子会社、ホライズン社が前面に出る。日立と日揮はホライズン社から直接受注するかたちになる。ベクテルは建設コストを計算したり、工程を管理する“監督役”として残るという。
 
 日立は資金を支援する英国政府から強くコスト削減を求められており、ホライズン社が原子炉やタービンなどの設備工事を直接発注すればコスト削減につながると、日立は説明している。
 だが、「ベクテルが高騰する建設費を懸念して工事の主体になることを避けた」と見る向きが多い。
 日程が遅れるなどして建設費が想定より膨らんだ場合の損失は誰が負担するのか。3社体制を見直した結果、リスクはホライズン社が一手にかぶることになる。だが、実態は「ホライズン社=日立」である。
 日立はホライズン社への出資を金融機関などに呼びかけており、自社の出資比率を100%から50%未満に引き下げて連結決算の対象から切り離すことを、着工の条件としている。ベクテルが降りたため、ホライズン社の損失リスクが高まったとの見方が台頭している。ホライズン社の出資金集めが難航すれば、事業の継続さえ危うくなる。
 
 日立は7月30日、英国での原発計画をめぐり、現時点で中止すれば最大約2700億円の損失が生じるとの見通しを明らかにした。中止の決定が遅くなれば、損失はさらに膨らむことになる。
「傷を深くしないために、即刻、英国原発から撤退すべきだ。へたをすれば東芝の二の舞いになる」と懸念する声が経済・産業界から上がる。撤退は中西会長の決断にかかっている。しかし、ビジネスライクで割り切れない事情があるのは間違いない。
 
 安倍晋三政権は、退潮に拍車がかかる原発の輸出を、成長戦略の柱に据えている。その一環として資金難に悩む英原発事業に、官民で1兆円超を投資するプランを打ち出した。
 日立は安倍政権と二人三脚で原発ビジネスに推進するという構図が、すでに出来上がっていると指摘する向きもある。外資系証券会社のアナリストは、こう懸念する。
「日本政府の英国原発への大盤振る舞いが、日立に撤退のタイミングを失わせるかもしれない」
 中西氏の立場は微妙だ。経団連会長となったことで一層、ビジネスライクに割り切ることができなくなった。英国政府、日本政府の両方の立場を考慮しなければならないからだ。
 
 中西氏は英国原発プロジェクトからの撤退を決断できるのか。撤退できなければ、日立は“東芝化”の道を歩む可能性が高い。(文=編集部)