25日の広島高裁異議審での決定文で、「火山ガイドの定めが、検討対象火山の噴火の時期および程度が相当前の時点で相当程度の正確さで予測できることを前提としている点は不合理」と認めた上で、噴火の時期や程度を正確に予測できない現在の火山学の水準では、噴火の危険想定は「わが国の社会が自然災害に対する危険をどの程度まで容認するかという社会通念を基準として判断せざるを得ない」として、「国民の大多数はそのことを問題にしていない」から「安全性に欠けるところはない」とするのが「現時点におけるわが国の社会通念であると認めざるを得ない」として再稼働を認めました。
「国民の大多数はそのことを問題にしていない」から「安全性に欠けるところはない」の理屈には、「何故国民は問題にしていないのか」についての検討がなく、論理性に欠けたものであることは明らかです。
産経新聞が【原発最前線】でこの問題を取り上げました。
同記事によって、規制委が昨年12月の高裁決定が出た後に、「リスクは社会通念上容認される水準である」とする文書を出しており、それが高裁の決定の中で採用されていたことが明らかになりました。いわば此度の高裁の決定は、規制委との共同責任と言える関係にあったわけです。
また、更田氏が「破局的噴火は地球規模で起こる災害で、その対処は一つの発電所に対する審査の範囲内で判断するようなことではない」と述べたことが、もしも阿蘇山周辺の一定地域(四国も含める)が火砕流や火山灰に見舞われるような破局的噴火であれば、チェルノブイリの数十倍以上の放射性物質が空中に撒き散らかされる事態になっても仕方がないという意味であれば、それは根本的な間違いです。
今度の広島高裁の決定については、法律家ではなく、科学者による徹底的な解明が望まれます。
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【原発最前線】
「破局的噴火」めぐり揺れた司法判断 審査基準は不合理
規制委が見直し検討
産経新聞 2018年10月2日
四国電力伊方原発3号機(愛媛県)の運転を差し止めた広島高裁の仮処分決定を四国電が不服とした異議審で、広島高裁は9月25日、昨年12月の仮処分決定を取り消したが、火山が原発に与える影響を原子力規制委員会が評価する際の内規「火山ガイド」について「不合理」と指摘した。規制委の更田(ふけた)豊志委員長は翌日の定例会見で、火山ガイドの見直しを検討する考えを示したが、何が問題になっているのか。(社会部編集委員 鵜野光博)
「予測前提は不合理」
「立地評価に関する火山ガイドの定めは、検討対象火山の噴火の時期および程度が相当前の時点で相当程度の正確さで予測できることを前提としている点においてその内容が不合理であり…」
これは、9月25日の広島高裁決定要旨からの引用。広島地裁が昨年3月に差し止め請求を棄却した決定でも、同様に「不合理」を指摘していた。
火山ガイドの正式名称は「原子力発電所の火山影響評価ガイド」で、規制委の安全審査で確認すべき事項を「立地」と「影響」に分けて評価。立地評価では原発の半径160キロ圏内で将来活動する可能性がある火山を抽出し、設計対応不可能な火砕流などが敷地に到達する可能性が「十分小さい」と評価できなければ、原発の立地に不適とされる。影響評価では、火山灰などによって施設の機能が失われないかを確認する。
伊方原発3号機をめぐっては広島地裁が昨年3月30日、住民らの運転差し止め請求を棄却したが、即時抗告審で広島高裁は同年12月13日、運転差し止めの仮処分を決定した。それが今回の異議審で、仮処分決定は取り消された。
判断を分けたのは、伊方原発から約130キロ離れた阿蘇カルデラの「破局的噴火」をめぐる扱いだった。
社会通念が基準
破局的噴火とは、阿蘇カルデラの火砕流が九州を越えて本州、四国にまで達するような大災害を意味する。
地裁は昨年3月、「破局的噴火の発生する可能性が相応の根拠をもって示されたとはいえない」とし、「示されない限り、原発の安全性確保の上で自然災害として想定しなくても、安全性に欠けるところはない」と判断した。ところが高裁は同12月、「約9万年前の噴火による火砕流が伊方原発の敷地に到達した可能性が十分低いと評価することはできない」と認定。「発生頻度が著しく小さい破局的噴火によって生じるリスクは無視しうるものとして容認するのが、わが国の社会通念ではないかとの疑いがないではない」としつつも、火山ガイドを厳格に適用して「立地不適」の結論を出した。
これに対し、今回の異議審で高裁は、火砕流の到達可能性については同様に認定したものの、噴火の時期や程度を正確に予測できない現在の火山学の水準では、噴火の危険想定は「わが国の社会が自然災害に対する危険をどの程度まで容認するかという社会通念を基準として判断せざるを得ない」と指摘。
「国は破局的噴火のような自然災害を想定した具体的対策は策定しておらず、策定しようとする動きもなく、国民の大多数はそのことを問題にしていない」として、地裁と同様に「安全性に欠けるところはない」とするのが「現時点におけるわが国の社会通念であると認めざるを得ない」とした。
この「社会通念上容認される」という指摘は、規制委が今年3月、破局的噴火についての「基本的な考え方」として示したものと同じだった。
司法判断に対応?
異議審の高裁決定から一夜明けた9月26日に行われた定例会見で、更田氏は「社会通念上容認される」という考え方について、「破局的噴火は地球規模で起こる災害で、その対処は一つの発電所に対する審査の範囲内で判断するようなことではない。それが通念としてという意味の一つであろうと私は思う」と説明。
「不合理」とされたことについては「合理性はあると思っているが、地震は規模が大きくなればなるほど頻度が小さく、知見も限られる。また、確率論に乗ってこない。極めて頻度の低い自然現象に関して意見が分かれることはつきものだと思う」と述べた。
現状の火山ガイドについては「受け取る人によって理解の幅が生まれてしまうのではないかという疑問を私たちも持っている。改める余地があれば、記述の充実も含めて取り組んでいくつもりだ」と表明した。
規制委は伊方原発3号機をめぐる司法判断について「民間同士で国が関わっていない」として直接コメントしていないが、更田氏は昨年12月の高裁決定が出た後の今年2月の時点で、事務局の原子力規制庁に破局的噴火についての基本的考え方を整理するよう指示。前述のように「リスクは社会通念上容認される水準である」とする文書が示された。
2月21日の会見で更田氏は「火山ガイドの改訂を考えているわけでは決してない」としていたが、9月26日には見直しの検討を表明。揺れる司法判断への対応を余儀なくされている格好だ。
原発の運転差し止めを求める仮処分申し立てや裁判は各地で起こされており、規制委の見解は大きな影響力を持っている。有史以来日本人が経験していない、国土に人が住めなくなるような破局的噴火に対し、原子力の規制官庁がどのような文言を示すのか。「検討」の行方を注目したい。
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伊方原発四国電力が愛媛県伊方町に持つ計3基の加圧水型軽水炉。3号機(出力89万キロワット)は平成6年に運転開始。23年に定期検査で停止し、28年8月に再稼働したが、29年12月に広島高裁が仮処分決定で30年9月30日までの運転差し止めを命じた。昭和52年運転開始の1号機、57年開始の2号機(いずれも出力56万6千キロワット)は多額の安全対策費がかかるなどとして、四国電は廃炉を決めた。