2018年10月8日月曜日

台湾政府は強い意志で脱原発

 台湾約1兆1400億円投じ新北市龍門原子力発電所を作りました(未完成)が、大規模な反原発デモを受けて建設中止しました。
 台湾今後10年で脱原発を成し遂げる計画ですが、それは「非常に野心的だ」と言う評価もあります。
 経済団体は将来的な供給電力の抑制を回避するため、脱原発の撤回と龍門原発の始動を政府に要求していますが、政府は脱原発の姿勢を崩していません。その楽観性の背景には太陽光・風力発電の世界的なコスト低下と、中東や豪州、米国産の安価なLNGの供給拡大があります
 台湾海峡は世界有数の洋上風力発電の適地として知られ、今年4月、蔡政権は投資を呼び込むため380万キロワット分の新規洋上風力発電所からの電力を固定価格で買い取ると発表したので、多くの企業が受注を競いました。
 Sankei Bizが台湾の脱原発の現状を伝えました。
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脱原発の台湾を待つ「ハードル」 有望視される発電方法は
 2018年10月7日
 台湾の龍門原子力発電所(新北市)の警備員宿舎にある地図には、研修室や寮、食料品店、警察署など、ここに建てられるはずだった施設が描かれている。北東部沿岸に位置する台湾第4のこの原発は、アジア7位の経済規模を持つ台湾で増大する電力需要に対応する予定だった。
 
需給逼迫を懸念
 だが、この複合施設は空っぽのままだ。100億ドル(約1兆1400億円)が投じられたものの、大規模な反原発デモを受けて建設が中止し、未完成で稼働に至っていない。2011年に日本の福島第1原発で発生した炉心溶融(メルトダウン)事故以降、台湾はエネルギー政策を再構築し、蔡英文総統は25年までに原発を全廃することを決めた。
 
 そのため台湾では、電力供給の12%を占める原子力に代わる、環境負荷の少ない発電手段を探すのが急務となっている。太陽光や風力、天然ガスなど再生可能エネルギーの開発促進を目指すこうした動きは、アジア地域全体で見られる。オーストラリアから韓国、中国、インドに至る国々は気候変動と大気汚染を引き起こす有害物質の排出を抑制しつつ、急増する電力需要を満たす方法を模索している。
 
 台湾では、風況の良い台湾海峡で洋上風力発電施設の建設が計画されている。太陽光パネルが沿岸部の塩類平原に出現し、液化天然ガス(LNG)輸入強化のためのターミナル建設も進む。だが、新たな電源開発事業は何年も要するかもしれず、電力需給が逼迫(ひっぱく)してくれば計画停電や大規模停電もあり得る。
 「供給予備力と電力の安定供給は、今後数年間の懸念材料となるだろう」と、調査会社IHSマークイットのアナリスト、チョウウェイ・ディアオ氏は語る。
 
 台湾政府はいくつかの目標を掲げている。まずは全ての原発と大半の石炭火力発電所の廃止だ。25年の石炭火力発電量は現在と同程度となる見込みだが、総発電に占める割合は代替エネルギーの導入拡大に伴って現在の半分から30%へ減らす。最も使用量が増加するのが天然ガスで、25年までに電力供給の半分を担う見込みだ。一方で風力、太陽光発電など再エネ比率は20%と、3倍以上に引き上げる。
 
3分の2が森林
 台湾が今後10年で脱原発を成し遂げ、高まる電力需要に代替エネルギーで対応するという計画は「非常に野心的だ」と、ウッドマッケンジーのアナリスト、ロバート・リュー氏は語る。「これまでのところは上出来だが、用心すべきは数年後の状況だ」
 
 政府の方針は電力網を不安定な状態にしている。ブルームバーグ・ニュー・エナジー・ファイナンス(BNEF)によれば、3年前、台湾はピーク時需要を15%上回る発電能力があった。供給予備率は15年に10%に減り、いくつかの原子炉がメンテナンスのため稼働を一時停止した17年8月には1.7%まで落ち込んだ。今夏はおおむね6%強にとどまった。
 中華民国工商協進会ら経済団体は将来的な供給電力の抑制を回避するため、脱原発の撤回と龍門原発の始動を政府に要求している。しかし政府は脱原発の姿勢を崩していない。その楽観性の背景には太陽光・風力発電の世界的なコスト低下と、中東や豪州、米国産の安価なLNGの供給拡大がある。
 
 だがLNGプラントや受入設備の建設には何年も要する上、どんな遅延も台湾の電力増産計画を阻害する可能性があると、BNEFのアナリストのジョナサン・ルアン氏は指摘する。それは、台湾の太陽光発電事業などが困難に直面しているためでもある。
 
 シンガポールのベナ・エナジーは、目標発電容量5メガワットという台湾最大の太陽光発電所の建設を手掛けている。台湾は約3分の2が森林のため、日照量に恵まれた平地が少ない。ベナはこの事業のため20人以上の地主と交渉し、農地を避けるために奇妙な角度で太陽光パネルを設置する必要を迫られた。
 
 洋上風力発電は、台湾でなじみが薄い点がネックとなっている。だがこちらはそれでも有望だ。台湾海峡は世界有数の洋上風力発電の適地とされる。今年4月、蔡政権は投資を呼び込むため8ギガワット分の新規洋上風力発電所からの電力を固定価格で買い取ると発表し、多くの企業が受注を競った。 (8ギガワット380万キロワット)
 中部・台中市の港では、洋上風力発電産業が形成されつつある。クレーンが出現し、高層ビルに匹敵する巨大タービンの建設に向けて専用埠頭(ふとう)の開発が進められている。
 
 同市ではまた、風力発電関連のあらゆる部品メーカー誘致のための土地が確保され、道路や電気などインフラ整備が行われている。洋上風力発電産業への就職を促進する訓練センターの完成式も最近行われた。
「これは地元を離れることなく良いキャリアを築く機会を若者に与えるだろう」と、訓練センター長のクオイン・ワン氏は述べた。
(ブルームバーグ Dan Murtaugh、Miaojung Lin)