2018年10月21日日曜日

津波対策「即応不要と判断」武黒元副社長/理解に苦しむと新潟日報

 強制起訴された東電旧経営陣3人の公判で、19日には武黒一郎元副社長(72)への被告人質問が行われ、同氏は、質問に答え、最大15.7mの津波試算を把握した際に「すぐに何かしないといけないとは思わなかった」と述べました。
 
 そうした東電経営者たちの姿勢に対して、新潟日報は社説で、
原発を運転する電力会社にとって、安全と安心の確保は立地地域への最大の責任で、そのためにはリスク管理を徹底しなければならない」、「077中越沖地震で、柏崎刈羽原発で4基が緊急停止し敷地内の建物や道路などが損傷する被害経験したにもかかわらず、国の地震予測を信頼性がないと決めつけたのは理解に苦しむ
と述べました
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東電公判 津波対策「即応不要と判断」 武黒元副社長、武藤氏と同じ見解
東京新聞 2018年10月20日
 東京電力福島第一原発事故を巡り、業務上過失致死傷罪で強制起訴された東電旧経営陣三人の公判が十九日、東京地裁(永渕健一裁判長)であった。武黒(たけくろ)一郎元副社長(72)は被告人質問で、最大一五・七メートルの津波試算を把握した際の対応を問われ、「すぐに何かしないといけないとは思わなかった」と述べ、ただちに対策を取る必要性を認めなかったと述べた。
 
 被告人質問は、武藤栄(さかえ)元副社長(68)に続き二人目。武黒元副社長は二〇〇八年三月に国の地震予測「長期評価」に基づく津波試算が判明した際、原子力・立地本部長を務め、原発の安全対策を担う責任者だった
 副本部長だった武藤元副社長が先に試算を把握したが、まずは外部機関に試算手法の研究を委託するよう部下に指示。〇八年八月、武黒元副社長に方針を報告したと被告人質問で答えていた。
 武黒元副社長は試算結果を把握した時期について、武藤元副社長とは別の部下から「〇九年四月か五月に報告を受けた」と証言。「部下からは『あてにならない』と聞いた。専門家に聞いてはっきりさせないと前に進めないので、まずは外部機関への調査委託でいいと思った」と述べ、武藤元副社長と同様の判断をしたことを明らかにした。「長期評価は根拠がないと思ったので、そのままの高さで津波が襲来するのは考えにくかった」とも述べた。
 
 調査期間の見通しについては、「部下からは年単位でかかると聞いた。『ちょっと長いな』と思ったが、別に『遅すぎる』とは思わなかった」と強調。一方で部下に調査の進捗(しんちょく)を問うことも特にしなかったという。
 武黒元副社長への被告人質問は三十日も続行し、その後、勝俣恒久元会長(78)への被告人質問が始まる。 (蜘手美鶴)
 
 
社説 東電被告人質問 立地地域への思い見えぬ
新潟日報 2018年10月20日
 想定を超える巨大津波が原発を襲えば、立地地域に暮らす多くの住民やその暮らしが脅かされるかもしれない。そうした想像力が、経営側に欠如していたとしか受け取れない。
 東京電力福島第1原発事故を巡り、業務上過失致死傷罪で強制起訴された東電旧経営陣3人の公判で、被告人質問が行われている。
 既に武藤栄、武黒一郎両元副社長に対する質問があり、今月末には勝俣恒久元会長が出廷する予定だ。3人は「事故は予測できず、対策を講じても防げなかった」と、そろって無罪を主張している。
 
 焦点は、津波対策の先送りを指示していたかどうかである。津波対策の「キーマン」とされる武藤氏は、質問でこの点について否定した。
 武藤氏は事故前の2008年6月、国の地震予測である「長期評価」を基に、最大15・7メートルの高さの津波が原発敷地を襲う可能性があるとの試算結果を担当者から伝えられた。
 だが長期評価には信頼性がなく、対策を決められる状況にないと判断し、試算手法の研究を専門家に依頼するよう指示したという。
 検察官役の指定弁護士は「先送り」と主張し、津波対策の先送りは経営判断と受け止めたとする東電社員の証言もある。
 しかし、武藤氏は「時間を稼ぐ意図は全くなく、対策の先送りと言われるのは心外だ」と強調した。
 
 主張が平行線をたどる中で浮かび上がったのは、経営側の危機管理意識の甘さである。東電が、原発の運転を担う組織としての資格を欠いていたことを物語るものだ。
 巨大地震や巨大津波は、いつ襲ってくるか分からない。災害によって原発が損傷し、外部に放射性物質が放出されるような事態を招けば、立地地域への大きな不安となる。
 原発を運転する電力会社にとって、安全と安心の確保は立地地域への最大の責任だ。そのためにはリスク管理を徹底しなければならない
 経営陣がそうした認識を強く抱いていれば、もっと真剣に津波対策に向き合うことになっていたはずだ。
 07年7月には中越沖地震が発生した。地震による揺れは想定を大きく上回り、柏崎刈羽原発で動いていた4基が緊急停止した。原発敷地内の建物や道路などが損傷する被害も出た。
 その経験があったにもかかわらず、なぜ国の地震予測を「信頼性がない」と決めつけるような態度を取ったのか。理解に苦しむばかりである。
 
 東電はことあるごとに「地域の安全と安心を重視する」と強調してきた。あれは、口約束にすぎなかったのか。
 武藤氏も武黒氏も被告人質問の冒頭で事故による犠牲者や避難者に謝罪したが、それで済むはずはあるまい。
 勝俣氏を含め旧経営陣は、自らの重い責任を胸に刻み直さなければならない。